勇気と無謀は紙一重

 はじめから俺はこの計画には反対していた。理由は三つあって、ひとつは列車が時間通りに目標地点を通るかどうか分からないこと、もうひとつは苦労のわりに獲物が少ないこと、そしてもうひとつは保安官が乗り合わせている可能性があったことだ。
 しかし、どれも杞憂だった。相方のレインが言うとおり、列車はちゃんと時刻表通りに来たし、保安官も乗っていなかった。俺達が狙っていた金塊も予想以上の量、コンテナ三つ分が積まれていたんだ。
「な、俺が言った通りだったろ。俺の計画に間違いはないんだよ、ジミー」
「そうだな。それは認めるよ」
「そりゃあ、もう」
 へらへらとレインは両手を上に挙げたまま答えた。
「ついでにここをどう切りぬけるかも、ちゃんと考えてあるんだろうな。え、レイン・ライナス?」
 もし誤算があったとすれば、こいつ――筋骨隆々、顔はどっかの映画俳優みたいにきりりと引き締まっていて、その両手に牛でも殴り殺せそうな巨大スコップを持っている――アントン・ガバリッチャが、鋭い目付きで俺達の目の前に立ちはだかっていることだった。
「なにをごちゃごちゃやってる。両手は頭の上が約束だぜ、ボーイズ。このスコップでミンチにされたいか」
 アントンがすごむ。レインはびびって疲労で下がりかけた両腕をまたまっすぐ、天井に向けて差し上げた。何が俺の計画に間違いはない、だ。
「機関室に戻らなくていいのかよ。あんた、運転手だろ。そろそろ列車が走らなくなっちまうぞ。脱線したらどうするんだ」
 俺の質問にアントンはにやりと笑った。余裕たっぷりの笑いだった。
「心配してくれてありがとうよ。ここから先は二百キロばかし直線なんだ。俺がいなくても問題ないんだよ」
 どうりで余裕かましていられるわけだ。このアントンときたらバケモノで、俺達のちゃちい拳銃など全然通用しない。俺はレインと二人で列車を止めようと機関室に乗り込んだのだが、アントンはせせら笑って俺に体当たりをかまし、レインのことを床に叩きつけたのだった。
「なあ、そのスコップどけてくれよ。俺、先端恐怖症なんだよ」
「いやだね」
 首すじにつきつけられたスコップの刃先に目をやりながら、俺は時間を稼いでいた。さっきからレインがつま先で何かしている。もちろんアントンの目を盗んでだったが、何か考えついたのだろう。
「じゃあもう少しさきっちょ下げてくれ。揺れた拍子にざく、なんて止めてくれ」
「そしたらそれがてめえの寿命だろうよ」
 無慈悲な運転手だ。ところが言ったとたんにがたん、と列車が揺れて、俺はタール臭い木の床に転げてしまった。
「うわわわわわ」
「ちっ、逃げるんじゃねえぞ」
 アントンは仰向けに床に転んだ俺にスコップを差しつける。と、その時だった。
「きゃーっ!」
「そいつを離しやがれ」
 レインが女の首に腕をかけ、頭に拳銃をつきつけていた。女の体は床から半分生えていて、よく見ると跳ね上げ式のふたが見えている。床下の隙間から出てきたらしい。
「この女の頭ぶちぬくぞ! 分かったらそいつを離せ!」
「くそっ」
 アントンが短くうなる。俺の襟首をつかんで持ち上げ、頭突きをかまそうとして止めた。レインが引き金を引くふりをしたからだ。なかなかの役者っぷりだった。
「サンキュ、レイン」
 俺はその場に起き上がって、レインが抱えている女を眺めた。床下から出てきたわりにはけっこうな美人だった。
「助けて」
 アントンが歯軋りをする。この列車は貨物だから乗客はいない。ということは無賃乗車だ。こんな女のために、というのが見え見えだった。

――「行き当たりばったり列車強盗」冒頭――

  

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