いつでも万全
〜自立式全自動持ち出し袋ナナちゃん〜

 軽い音がして本体に電源が入った。彼は期待に高鳴る胸を押さえながら、愛しい機械の起動を待った。それはエネルギーが満ちるにつれ、自ら起き上がり彼の方を向いた。
「おはようございます、ご主人様」
 成功だ。これは美しい肢体と完璧な頭脳、そして整った顔立ちを持つ、彼の最高傑作だった。長年この分野に携わってきた彼が、持てる力をすべて注ぎ込んだ作品だった。
 おそるおそる、彼はテストを開始した。いくつかの簡単な質問を相手にぶつける。
「僕の名前は」
「N博士です」
「食料のストックは」
「一年分」
「僕が見つからない時はどうする」
「警察に駆け込みます」
「預金通帳とハンコは」
「パスワードを」
 彼はくらくらするような喜びに浸った。これこそ彼が夢にまで見た、自立式全自動持ち出し袋、ナナちゃんだった。ハイパワーで高性能、なおかつセキュリティも万全という、素晴らしい持ち出し袋を彼は完成させたのである。
 彼は最後のテストを始めた。
「今は災害時だ。その想定で行動してみろ」
「はい。少々お待ち下さい」
 ナナちゃんはそこに座り、着せられている服を脱ぎ出した。
 ビスチェ型の下着に包まれた、意外なほど大きな胸が露わになる。彼はその柔らかさをよく確かめてから、両方の乳首に当たる部分に手をやり、下着の上からボタンを押した。
 数十秒後、チーン、という音があたりに響き渡った。同時に胸の部分がぱかん、と大きく開く。
 そこにあつあつの、丸いものがふたつ納められていた。ナナちゃんの胸は、この丸いもので形作られていたのだった。
「どうぞ。博士のお好きなクルミパンです。あと298個ストックされています」
 どんな災害時でも、どんな状況下においても彼は自分の大好物が食べたかった。ナナちゃんは大成功であり、彼は満足して深く深くうなずいた。

 

   

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