ウルタールからの半月ばかり過ぎたところに

〜一・黒髪の青年〜

 黒い長い髪をした青年が、私を誘う。彼がどこから現れたのか、私は知らない。まるで昔からの知り合いのように私の夢の中に住みつき、その存在を誇示している。
「あなたの欲しいものはここにある」
 ほっそりとした面長の彼は、長い指を開いて、その手の中にあるものを見せつける。それは小さくて、きらきらと光るものだ。私が必死になって望んで、手に入れられなかった何かだ。
「ただでは渡せない」
彼はそう言い放つ。代償はなんなのか、私には分からない。
 この悪魔のように賢い青年には、尋ねても無駄だ。それでも一縷の望みをかけて、私は彼に聞いてみる。
「それをくれないの」
 彼はそれを聞いててのひらを閉じる。開くときらきら光る、違うものがその手に乗っている。
「これもあなたの欲しかったものだ」
もう一度、手のひらが閉じられる。また開く。違うものがその手で光っている。
「これもだ。あなたは贅沢だな」
私は何が自分の望みなのかわからなくなる。青年の冷たい笑みが、私を直撃する。
「まだたくさんある。どれが欲しい」
 ちらちらと、その手の中で光が踊る。色を変えながら、たくさんの光が長い指の間に見え隠れする。ついにたまらなくなって、私は彼に言ってしまう。
「全部、全部ちょうだい。それは全部私のものだから」
青年はため息をついて、私の前からいなくなる。
 彼の消え去ったあとに、私は小さな光が落ちているのを見つけて拾い上げる。最初に見たのと同じ光だ。本当に欲しかったのはこの光だったと私は思い返す。
 そして、彼がやっていたようにそれを手のひらに乗せる。光は明るくちらちらと踊り、私は嬉しくなる。あんなに青年に怯えることはなかったのだ。願えばすぐ手に入る。自分は愚かだったと私は思い、その愚かだった自分を笑う。
 しかしすぐにその光は消えてしまった。私はまた再び、どん底に突き落とされる。青年の冷たい笑みが鮮やかによみがえり、私はさっきの自分を恥じる。だがもう、あの青年はいない。
 代償はなんなのか、私にはいまだに分からない。一生分からないかもしれない。

 

  

inserted by FC2 system