ウルタールからの半月ばかり過ぎたところに

〜十・白い髪の少女〜

 暗い洞窟の中に、少女がひとりいる。その瞳は赤く、髪は晒したように白い。光る生地の簡単な作りのワンピースを着て、暗い中をゆっくりと歩いていく。彼女の目は見えないが、この暗がりでは何の不自由もない。何度も往復したことのある感覚だけに頼って、着実に少女は足を進めていく。
 彼女の右どなりには河が流れている。その水は薄緑色に発光していて、川岸を蛍光色に染めている。そんな水の中にも生き物はいて、ときおり螺旋状に水面に浮かび上がり、空気を吸ってまた沈んでいく。
 河に沿って進む少女の後ろを、一艘の船がゆっくりと付いていく。船に乗っているのは彼女の一族であり、この閉ざされた世界のすべてだ。この闇に住む、最後の住人達だ。
 彼女の先導により、一族は生き延びることができる。船の中をよく見れば、ちらほらと白化の始まった者がいることが分かるだろう。もうあまり時間がない。適応という名の魔術は、この洞窟から彼らが出ていくのを阻もうとしている。あまりにも長い時間、この場所に居過ぎたからだ。
 アルビノの少女が生まれたときに、彼女の一族は決断を下した。ここまで降りてきた先祖の古い記憶を辿り、河をさかのぼった。船上で一生を終えるしきたりを破って、少女に地面を歩かせた。その努力のかいあって、少女は外界への出口を見つけ出した。一艘、また一艘と船団を組んでいた船はいなくなり、とうとう彼女の血縁者だけが乗る船が残った。それも今日、外へと出て行く。
 壊れたゲートが見えてきた。自動で動くように作られた、鋼鉄製の巨大なものだ。洞窟の入口を遮断し、外からの侵入者を防ぐ。または中から危険なものが出て行かないために作られている。
 しかし、長い年月のうちにゲートはその用をなさなくなった。だからこそ彼女の一族は外に出ていくことができる。長い間隔離され、安全に護られた場所から彼らは出て行く。アルビノの少女ひとりを置いて、彼らは外界に出発する。
 無慈悲なのではない。彼女は外では生きていけないからだ。この闇の本当の住人として彼女は生まれた。明るい昼は彼女の皮膚を焼き、その目をただれさせる。乾いた強い風は美しく光る髪を吹き散らし、四散させる。彼女はここに留まらざるをえない。
 最後の船に手を振り、少女はその船体の振動が感じ取れなくなるまで立ちつくす。彼らがどこへ行くのか彼女は知らない。自分が置いて行かれる理由はうすうす分かっているが、それを責めることもできない。もとよりそんなつもりもないのだ。
 きびすを返して彼女は洞窟の中に戻る。淡い光の支配する、自らの生きる世界へ帰っていく。ひとりぼっちではあるが絶望することもない。少女はこう考える。
 見捨てられたわけではないのだ。いつか彼らはここに戻ってくるだろう。新しい世界を見つけたら自分を迎えに来るはずだ。そのための船出なのだから。いつ戻ってくるかは分からないけれども、きっと彼らは帰ってくる。
 そうして膝を抱えて少女は眠る。優しい過去と未来を夢見ながら。

 

※この物語は「DARK WALKER」冒頭部分の原型です。というかお兄さんがいないだけでほぼそのままだったりします。
  この少女の生立ちと一族の歴史物語も書きたかったんですが、難しくて挫折しました(涙)。

  

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