ウルタールからの半月ばかり過ぎたところに

〜二・常夜にて〜

 たった一人で私はここにいる。いつまでここにいなくてはならないのか、どうやったら出られるのか、答えを探して私はさまよっている。
「誰か、誰か!」
 どこからも返事はかえってこない。私は少し焦り、それから安心する。ここには誰もいないのだ。自分は誰もいないことを本当は望んでいる。軽い衝撃とともに、それが本心であることを私は悟る。
 もうまっぴらだと、心の奥底から自分のつぶやきが聞こえてくる。そうだ、自分は他人など望んでいないのだと、同意する声がわき上がってくる。他人に期待などするな、ともその声は言う。心地よい、暗い眠りに誘う声だ。
 他人がいなければ明るさなど関係がない。広さもそうだ。世界は暗く、小さく縮こまっていく。体温など必要ないから、体も冷たく冷えてゆく。ゆっくりと、何もない眠りに私は落ち込んでゆく。
 もう少しで私はあの闇と一緒になる。甘く、柔らかく、とろけそうな眠りが近づいてくる。それは死と同じだ。闇に同化し、息づく者になろうと私はその訪問を待ち構える。世界に希望はない、明日など無意味だとそれがささやく。
 お前が世界を拒否した時に、世界もお前を拒否した。だからお前はここの住人になった。世界は無価値だ。だからお前にも何の価値もない。そう声は言う。眠りかけた頭で私はそれを認め、ふいに泣き出しそうになる。
 自分は無価値なのだ。だからここにいる。世界を拒否したときに、自分は死んだ者と同じになった。なぜ世界を拒否したのか、そのいきさつを私は思い出す。
 私を裏切った者の名を、闇の中で呼ぶ。なぜここにいないのだろう。いて当然のはずなのに、その人間はどこにもいなかった。
 私はかの者に忠誠を誓った。そうだ、あれは忠誠だった。自身の上位に立つことを許し、その支配を許した。それが崩れ去ったときに、私の世界も無価値なものになった。
 あんなものに頼るべきではなかった。私は自分の価値をそこに限定してしまった。忠誠を誓うべき相手を間違えたのだ。時とともに誓いは風化し、意味をなさなくなった。同時に私の存在にも意味がなくなった。真っ暗な闇の中で、私はそのことに気がつく。
 だが、もう戻れない。それでもどこかに認めて欲しくて、こうやって闇にすがりついている。私は起きあがって叫ぶ。
「誰か、誰か!」
 返事はない。永遠にない。私はたった一人で、この闇の中にいなくてはならなかった。

 

  

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