ウルタールからの半月ばかり過ぎたところに

〜八・飛行する小皿たち〜

 フライング・ソーサーという単語があった。今もあるのかもしれない。しかし現在ではめったに見ない言葉になった。空飛ぶ円盤、それがその意味だ。
 私も見ることがある。いくつもの小皿が編隊を組み、青い空を駆け抜けてゆく。爽快に、そして優雅に空を私して、我が物顔に飛びまわる。可愛らしく愛すべきものたちだ。なんの他意もなく、ただそこに存在する不思議なものだ。
 宇宙人が乗っているのだという者がいる。軍部の秘密兵器だと言う者もいる。死者の魂だと心霊家は言うし、科学者は自然に起こるプラズマ現象だと言う。諸説さまざまに人々は言い立てる。中に連れ込まれて実験されたという者すらいる。
 あれはああいう生き物なのだ。私はそう思う。雲間に隠れ、よく晴れた青空にほんの一時現れる、無害で小さな生き物だ。この空を飛び回るだけの、他の次元からやってきた生物だ。
 何のために存在するのかと聞いてはいけない。意味もなくそこにあるものなど、世の中にはたくさんある。あなたもそうだ。私だってそうだ。違うと言い張れるなら、それはそれでよい。私はそう言い張れないだけだ。
 意味はなくとも微笑を誘う存在はある。知能があるのかないのか、それすらも分からない銀色の小皿達が整然と隊列を組み、思いのままに空を飛び交う様子は愉快なものだ。雁のように連なり、それを崩し、きりもみして垂直に上昇する。さんざん遊んだかと思えばまるで飽きてしまったかのように急にいなくなる。夜空を変光しながら点滅し、空港の管制官を惑わせるなどお手のものだ。
 自分はここにいる、ここにいると明示し、ちらちらとまたたいてみせる。さながら幼い子供のように、人の気を引きたげに世界中のあちこちに出現する。いや、もしかしたらあの円盤は子供なのかもしれない。その証拠に彼らの悪戯が過ぎると、突如として巨大な葉巻型の船が現れるではないか。あれは母親なのだろう。遊び過ぎた子供は母親に叱られ、べそをかきながらそのスカートの下に隠れる。
 あれを捕らえてみようという試みがあった。なるべく小さなものを選び、彼らがよく現れる場所で捕虫網を構えて待つのだ。実際捕らえたという人がいて、まるで蝶のように虫かごに放り込んでおいたという。
 翌日には消えてなくなっていたが、おそらく逃げ出したのではなく、死んでしまったのだろう。死骸がないので消えたように見えたのに違いない。どちらにしてもかわいそうなことをしたものだ。
 最近はめっきりと目撃例を聞かなくなった。空を見上げる余裕が人々になくなったのか、彼らが遊び場所を変えたのかは定かでない。あるいは成長してしまって、この星よりもはるかに巨大な存在になってしまっているのかも知れない。

 

  

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