ウルタールからの半月ばかり過ぎたところに

〜九・熱帯樹のまどろむ午後〜

 空調の効いたオフィスの窓際に、熱帯樹の幼木がある。クーラーの乾いた冷風を受け、ガラス越しの弱い太陽を浴びて生きている。時々水を与えられ、ごくたまには肥料が与えられる。乾燥避けに霧を噴いてもらえることもある。オフィスにしてはまあまあの待遇を受けて、この熱帯樹はここにいる。
 この木は大きくなる。それこそ何十メートルにも伸び、強烈な直射日光を避けるための巨大な葉を広げ、弱い土壌に張りつくために根を目一杯に張る。そんな生命力の強い木だ。故郷ならば滋味の強い果実を実らせ、人々はそれを争ってもぎとる。貴重な収入源と栄養源として、人々は大事に大事にこの木を育てている。
 ここではそんなことはない。もともと、ほんの戯れに発芽させられただけだ。少しばかりエキゾチックな、それでいて愛嬌のある幼木のスタイルが愛されたに過ぎない。もし窓際に収まらぬほど育ってしまったら、邪魔だという理由であっさりと処分されてしまうだろう。
 運がよければもっと広いところ、例えば食堂やホールに移される。もしくは好きな人間が持って行くかもしれない。それでもこの四季の温度差の激しい地域で、管理の大変な、しかもよく伸びる熱帯性の高木を持っていられる者はそう多くない。みな面白半分に芽を出させ、そのうち嫌になって捨ててしまうのだ。不適合を起こし、枯れてしまうこともある。
 なんとなくこの、窓際に置かれた小さな木は愛されている。毎日誰かが様子を見に来るし、見ていると優しい気持ちになれる。声を掛ける者もいるし、葉がしおれていればみんなが心配をする。他に娯楽がないわけでもないのに不思議なものだ。
 真夏の陽射しに、この小さな木はまどろむ。うつうつと眠り、故郷の夢を見る。巨大な葉を思う存分広げ、地面に容赦なく根を張り、その巨体を支える。色鮮やかな鳥達を太い枝に止まらせ、虫達をその幹で養う。実りの時期がくれば人々が梯子をかけ、その果実を収穫する。
 そうしたら私は、その下の木陰で昼寝をしよう。大きくて固い葉を鳴らす風を聞き、恋人を呼ぶ鳥の歌を聞こう。幹の向こうに落ちる夕日を感嘆をもって眺め、甘い花の香りを思いきり吸い込む。自堕落に落ちてくる果実を拾い、それで空腹を満たせばよい。
 かなわぬ、いつまでもかなわぬ夢だ。私はこの木が枯れないことを祈るしかない。みなが飽きてある朝、突然に不要物として処分されてしまわぬように私は願っている。

 

  

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